笠松宏有作品「エアレース」

五島市笠松宏有記念館開館によせて美術評論家 林 紀一郎

念願の、待望の笠松宏有記念館が郷里五島市に開館の運びとなった。奇しくも7月に…。

3年前2005年7月17日早朝、天に召される日の前夜まで独立展出品の制作に没頭していた笠松宏有。痛苦に耐え、神に祈り、200号のキャンバスに向かい、文字通り”必死”に絵筆を動かしていた”祈りの画家”笠松宏有。晩年の制作は、おしなべてこの素朴純粋なキリスト者の信仰告白の証だった、といえるだろう。

笠松宏有の真摯な仕事ぶりを知り、その気さくで優しい人柄を愛してやまない人たちにとって、このたびの記念館の開館はいかばかりの慶事であろう。彼の未完の大作「春」を同年秋、第73回独立展の会場で目のあたりにした時の感動を今再び心に蘇らせている私にとっても、笠松宏有記念館の開館は、この上なく喜ばしい出来事なのである。

この記念館を訪れて感じるであろう喜び-それは彼の郷里・五島市奈留島の美しい自然の気、風土の霊、海の光と匂い、そして何よりも”愛と祈りの画家”が私達に遺してくれた”笠松絵画”という大切な形見に触れる喜びではなかろうか。来館者の皆様がこの島の自然と笠松絵画の美を共に感受していただけることを心から祈ってやまない。

2008年7月5日開館の日に

ふるさとの市民に守られて-画家・笠松宏有長崎県美術館館長 米田耕司

平成22年10月、五島市福江文化会館で「長崎県美術館名品展移動美術館 art moving in 五島」を開催しました。

初公開のピカソ等と共に長崎ゆかりの日本近代絵画を展観する企画で、笠松宏有作品の中から代表作の一つ「伝説-女の肖像」(47回独立展・1979年)を選定。笠松は1974年から1980年まで、五島の夜の海を背景にしたシリーズを描いています。その代表的作品を里帰りさせたいと考えました。出航する船と桟橋に佇む赤い服のマネキン、清澄な心象風景です。少年時代に父と櫓を漕ぎ中秋から冬にイカ釣りに出かけた五島の海。笠松の五島への郷愁と愛情を感じます。

彼の作品が笠松宏有記念館で故郷の人々に守られている幸福。作品がある限り笠松宏有は生きているのです。

笠松宏有記念館への想い笠松宏有次女 清水知恵子

私が物心ついたときには、父は、五島の夜の海の絵を描いていました。父の絵を眺めながら、私の目はいつも、五島の海を見ていたのです。

父の死後、五島を訪れる度に、私は「絵の中の海」を再発見しました。奈留島の城岳や千畳敷、そして島の至るところに見られる静かな美しい湾で、刻々と変化していく海の色や表情を眺めていると、まさにこの海を父は心の中に描き続けていたのだと実感します。

奈留島は父の愛した故郷であると共に私自身のルーツでもあり、父の作品が島の方々に見守られながら、皆様にご覧いただけることに深い喜びを感じています。

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